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2016年2月法話『いい加減、よい加減』
歌手の香坂優さんが、草月ホールでリサイタルをした時、歌と歌との合間の閑話が面白かった。
アルゼンチンのコルドバ州が主催する音楽祭に日本代表として招かれた時のこと、ブエノスアイレスの空港で入国係官が
「何の目的で来たのですか」
と尋ねたので、
「私は歌手として招かれ歌を歌いに来ました」
と答えたら、「あなたは歌手か、ならば今、歌ってみなさい。ここはアルゼンチンだからタンゴがいい」
という。(えっ、そんなこと、変な人)と思ったが、日本とちがう異国のここはアルゼンチン。希望通り「カミニート」を声高らかに歌ったら、まわりの人たちも声を合わせて大合唱。係官はよろこんで、
「わが国にようこそ」
といって握手をして、フリーパスで通してくれたという。香坂さんは冗談まじりに 「いい加減な国ですね」
といって話を締め括った。
なんともいいようのない「いい加減さ」が心地よく心に響いた。
この「いい加減」ということばは、理に適った丁度よい塩梅という意味と、それとは逆に、深く考えもせず無責任な態度を表す意味にも使われる。
香坂さんのいう「いい加減」は、理に適った「よい加減」と真面目さを欠いた「いい加減」との両方を含んでいる。
アルゼンチンに入国する際、歌手かどうかを調べるなら、歌を歌わせるのが一番確かめやすい。そのようにした係官のやり方は適切であったといえる。がしかし、場所柄を考えたならば、
”いい加減にしろよ” といいたくもなる。
香坂さんも、係官のことばに乗せられて歌ったのだから、気が合ったのだろう。おかげで友好的国際親善の場になった。
もし仮に、香坂さんが歌うことを拒絶して
「失礼な!!」
といったなら、どうなっただろうか。係官はそっぽを向き、不愉快な空気が漂ったことだろう。
ジョークともいえるいい加減さは、人間味があってホッとさせられる。