2017年1月法話『幸せ問答』

2016年12月20日
画.阿 貴志子

画.阿 貴志子

幸せ問答

 

退屈しのぎの寄合で収録した話です。退屈を癒す話だから、相当いい加減です。

「ところでだ、生きているうちに一度でもいいから、幸せってものにお目にかかりたいが、どうだね」

「そうありたいね。なにも好きこのんで不幸になることもないしね」

「なら聞くが、一番の幸せって、なんだと思う」

「そうさねぇ、やはりお金だ」

「そうか、お金か。金持ちになれたら、どんなにいいか知れないなぁー」

「お前さんには無理だ。お金持ちってのはだな、ケチでないとなれないからよ」

「そうか。ケチは嫌われるから、幸せとは言えない。なら家庭。家庭円満が一番の幸せ。うちに入る時『こんにちは』なんて言わないだろう。他人じゃないからだ。『ただいま』と声をかけて入る。帰り着く所だ。ほっとするね。だから家庭が一番」

「いいこと言うもんだなぁ。ただし、家族といえども愛別離苦といってな、愛する者との別れの苦しみはある。いつかその時が来るから、その時は長くは続かない」

「せっかくいいこと言ったと思えば水を差す。イヤミな奴だな」

 

そこに呑気者のトラがぬっと現れた。

「なんですか皆さん、顔をひっつめ合って、むずかしいお話ですか」

「そんなんじゃないよ。幸せについての話だ。ちょうどいい、トラに聞こう。幸せって何だと思う?」

「いきなり耒なすったね。それではお答えいたしましょう」

「なんだよ、急にあらたまってさ」

「これは簡単なようでむずかしい。哲学的問題である。つまりだ。幸せでないから幸せをかたるというわけだ。これをないものねだりという」

「なるほど一理あるね。では、トラ先生は、どのようにお答えになられますか」

「さっきここに来る途中で財布をすられた」

「それじゃ、今は不幸だ」

「ところが、そうではない」

「なんだ、負け惜しみか」

「とんでもない。わたしはこう考えた。わたしの前世はドロボウだった。他人様のものを盗んでいた。その報いで、この世では、盗まれ役になっている。まぁ、巡り合わせだ」

トラの話を聞いたみんなは、トラが一番幸せ者だと思った。



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